古くからヨーロッパで愛されてきた『フェンシング』。剣と剣を構えあい、お互いの技量をもって雌雄を決する。決闘という形式で行われるその姿には、中世の騎士を重ねる人も少なくないだろう。日本ではあまり知られていないが、フェンシングは第一回アテネオリンピックから正式な競技として採用されており、全世界に数十万人規模の競技者がいるほどメジャーなスポーツとして知られている。
その魅力は、相手の戦術の先を読む頭脳性、研ぎ澄まされた剣の精度で相手を突く正確性、そして華麗なフットワークで相手を惑わすスピード性を総合的に楽しめるところだろう。
日本でも2008年の北京オリンピックで『大田 雄貴選手』が銀メダルを獲得した事をきっかけに、注目が集まるようになってきた。現在、日本のフェンシング人口は一万人と言われており、柔道の二十万人と比べれば、まだまだマイナースポーツの域を出ないが、太田雄貴選手をはじめとした五輪メダリスト達がフェンシングのイベントを開催するようになってから、競技人口が増加傾向にある。ある自治体では、フェンシングのイベントがきっかけで、子供にフェンシングを始めさせるという家庭が増えてきているという。
そんな日本でも注目され始めているフェンシングだが、どのような経緯で競技化し、世界中から愛されるまでになったのだろうか?それまでは、長く険しい道のりであった事は、想像に難くないだろう。
今回は、これまでフェンシングが歩んできた道のりについて紹介していきたい。
この記事がイベントと同様、フェンシングに興味を持つきっかけになってくれれば幸いだ。
フェンシングの起源
ヨーロッパをはじめ、世界各国で愛されているフェンシング。今でこそスポーツとして競技化されているが、元は戦場で育まれた剣術がルーツだという事をご存知だろうか。
よく貴族のたしなみ程度の剣術が競技化したものとイメージされる人もいるだろうが、本来の起源は1500年ごろまで遡る。元は中世ヨーロッパの騎士たちの剣術がルーツであり、長剣など重量級の剣で、鎧を着ている相手を倒すのが目的だった。今のフェンシングを見ていると、全く想像できないが、中世の騎士達の戦い方は、それだけ力強い戦い方だった。
さらに時代が流れ、馬に乗った騎兵の出現と、火薬の発明により、戦術にスピードが要求されるようになる。これが現在のフェンシングで使用されている剣の前身となる、細くて軽い剣(レイピア)が好まれるきっかけになった。
しかし、銃火器が発達するにつれて、戦場で剣術の有用性は失われていく。戦場では剣から銃の時代へ・・・このまま剣術は時代の流れから消えていくものと思われたが、ヨーロッパでは騎士たちの技術の集大成に魅せられる人が多く、軍人や貴族の基礎的なたしなみとして研鑽が続けられるようになった。
競技化までの道
フェンシングが完全にヨーロッパで流行し始めたのは、安全性の高い金網製のマスクが開発された1750年頃のことだ。それまでは装備が簡素なもので、スポーツと呼ぶにはあまりにも危険なものだったが、防具が金網に変更されて以降、上流階級から庶民、子供まで幅広い人々に愛されるようになった。
スポーツとしての地位を確固たるものにしたのは、1914年に国際フェンシング協会(1913年、パリで設立)が、競技規則を制定した時のことだ。それまでヨーロッパ各地では、異なるルールで試合が行われていた為、国際大会などでトラブルが絶えなかった。そこで、国際フェンシング協会がルールを統一することで、トラブルをなくし、第一回アテネオリンピックから正式な競技として国際的に広まっていくことになったのだ。
フェンシングとはどのようなスポーツか?
フェンシングの形式自体は非常にシンプルで、剣を片手に持ち、1対1で互いに突き合う事でポイントを競うというもの。一概にフェンシングと言っても種目は3つにわかれていて、それぞれ使用する剣もルールも異なってくる。3種目の中で一番軽量級の剣を使い、首から胴体までの有効面を狙う『フルーレ』。全身が有効面で、3種目の中で一番重量級の剣を使う『エペ』、他の種目にはない斬るというモーションが許され、上半身全体が有効面の『サーブル』。各種目、幅1.5mから2m、長さ14mあるピストと呼ばれる台の上で試合を行い、『フルーレ』『エペ』は3分3セット、合計15ポイントを先に取った方が勝ちとなる。『サーブル』はスピーディな種目なので、8ポイント先取したら1分休憩。それから15ポイント先取した方が勝利。ここまで紹介した通り、種目によって特性はあるが、フルーレは華麗な剣技、エペは手に汗握る駆け引き、サーブルはスピーディーな試合展開が魅力といえるだろう。
まとめ
いかがだっただろうか?フェンシングはヨーロッパ発祥のスポーツだが、15世紀から始まり、ここまでおよそ500年以上の歴史がある由緒正しいスポーツだ。戦場で育まれてきた剣術がスポーツとして昇華され、今なお、研鑽が積まれているのは、人々を魅了してやまないものがフェンシングにあるからかもしれない。