世界大会2位の西藤 俊哉選手から学ぶ「試合に勝つために取り組むべきこと」

日本代表 試合 勝利

「試合で勝つためにはどうすればいいんだろう?」

これは、今フェンシングを頑張っている全ての人たちが、等しく抱えている課題なのではないだろうか。

実際、試合に出たら誰もが勝ちたいものだが、想いとは裏腹に現実に打ちのめされる選手も少なくない。

それもそのはずで、全員が結果を出すために戦っているわけだし、相応に練習もしている。自分より強い選手たちも等しく同じ気持ちであるから、簡単にいくわけがない。

そんな選手ならではの課題に対し、今回は2017年の世界大会で、見事準優勝に輝いた、西藤 俊哉選手が実践した「試合で勝つための取り組み」を紹介していく。

この記事が、今を生きるフェンサーたちの一助になれば幸いだ。

西藤 俊哉選手が実践した「試合で勝つための戦略」

既に試合に出たことがある人はご存じかもしれないが、試合で勝ちあがるためには、必ずぶつかる存在がある。”自分よりも格上の相手”だ。

その障壁を前にして、諦めるのか勝つために戦うかで、その選手の今後は大きく変わってくる。

今回お話しする西藤選手も、自分よりも格上の相手を押しのけ、世界大会で準優勝に輝いた。

では、彼はどのようにして、自分よりも強い選手を下したのか? そこには”勝ち”にこだわる、徹底した取り組みがあった。

世界大会でのエピソード

話の舞台は2017年7月、ドイツのライプチヒで行われた世界選手権。

男子フルーレ個人で日本代表として出場していた西藤 俊哉選手は、トーナメント2回戦で障壁となる存在とぶつかることになった。

相手はドイツのペーター・ヨピッヒ選手。

海外の選手なので、あまり知らないという方もいるかもしれないが、ロンドンオリンピックの準決勝、あの太田雄貴氏を追い詰め、軌跡の1秒の相手となった、ドイツが誇る名選手だ。

https://youtu.be/9B3nknXBgrE?t=33

実は西藤選手、この前の大会でヨピッヒ選手に敗北している。

自分よりも経験豊富で、前回の試合でも敗北、それにヨピッヒ選手は世界王者に輝いたこともある実力者で、普通の選手ならばそのネームバリューを聞いただけで、たじろいでしまうことだろう。

しかし、ここで西藤選手は何を考えたか、後日のインタビューで彼はこう話している。

「世界選手権の直前に戦った相手もいたので、”初めまして”という選手よりは、やりやすかった。その選手が、どれくらいスピードがあるか、どんな技が得意か、どんなクセがあるのかわかっていたので、作戦が立てやすかったんです。」
(ターザン 2018年3月号、マガジンハウス、2018年、94ページ)

実際、調子が良かったこともあるだろうが、彼は自分が負けた相手を分析する努力もしていた。

これは以前、西藤選手から直接話を聞く機会に恵まれた時のことだ。
当時、試合前に何をしていたかについて聞いたところ、彼はこう答えた。

「試合前にヨピッヒ選手のビデオを何回も見返していたんです。

それで作戦を立てて試合に臨んだところ、うまくハマったんですよ。」

リベンジとなったこの試合、西藤選手は15-5の大差で、ヨピッヒ選手を下している。

これは、一度負けたとしても、その選手を分析すれば、次回のリベンジに繋げることができるという好例だろう。この試合で勢いにのった西藤選手は、準決勝でリオオリンピック金メダリストを破って、決勝に進んでいる。

ここまでで既にお解りの方も多いと思うが、西藤選手が行っていた取り組みとは、”相手を知る努力をした”ということ。

その具体策として、以前戦った選手の癖などを見て、どのように戦えばいいか事前に準備をしていたというわけだ。

「これまでの積み重ね」が後の試合でも活きてくる

西藤選手が行っていた”相手を知る努力”というものは、一朝一夕でできるものではない。大事なのは、「これまでの積み重ね」といえる。

試合での経験はもちろん、練習で培ってきた技術、指導者からのアドバイスで気づけたことなどを蓄積し、次の試合に備える。最初はただ必至に練習し、試合をすればいい。しかし、ずっとそれでは後々通用しなくなってしまう。

ここで意識していただきたいのは、「積み重ねの”質”を高める」ということだ。

西藤選手も、積み重ねの質を高めるため、ビデオで相手選手のことをよく分析していた。それに、ただビデオを見ているだけではない。

ビデオを見た後、彼は下記の取り組みをしているのだと語ってくれた。

「僕の場合は、その選手が得点をとっているパターンを見て、それをいかにやられないようにするかということを意識しながら、弱点となる箇所(失点しやすいパターン)も同時に分析し、最終的に体のどの部分を突かれているのかを見て、どうやったら自分がそこにポイントを突けるのかを考えて、試合前にコーチとレッスンをする際に、『こういう技をやりたい』と話して、試合までに仕上げていくようにしています。」

相手のスタイルは? どのようなところに弱いか? どのようにして突きにいけばいいか? などをあらかじめ分析して、そこから具体的に練習につなげていくというわけだ。

フェンシングは”筋肉を使ったチェス”と言われるほど、頭を使う競技で、西藤選手の事例からも解る通り、”情報戦”の側面もある。

『そんなの難しいし、何故そこまでして情報集めしなきゃいけないの?』『そんなのなくても、自分の力で勝ってみせる!』

こう思う人もいるだろうが、事前に相手の情報を持っていて、それに対して準備をしているということは、やられる側にとっては脅威だ。即興でやられるよりもポイントの精度が安定しているし、何よりも自分の戦略が通用しないというのは、精神的なダメージを受ける。

それに比べ、やる側にとっては、既に何をやればいいかわかっているので、迷いなくポイントを突くことができる。

当の西藤選手本人も「前もって相手選手の情報をもっていることが、試合で勝つためには必要なこと」と言っている。

もちろん、分析結果が必ず当たるとは限らないので、基本技の精度を上げる努力も怠ってはいけない。ただ、普段から相手を分析し、技を試していくことで、試合の時に使える武器が増えるのは確かだ。

自分が苦手とする選手を分析し、勝つためにはどうすればいいか?どのようにして突けばいいのかを日々考え、その考えた結果を、レッスン(ポイント精度を高める練習)で試していきながら、試合で実践できるようにする。

それを実行するために、周りの人間にも協力してもらい、同じ選手からは気になるところの指摘を、指導者からはまだ至らないところを修正してもらい、自分を高めていくようにする。

そうした日々の積み重ねの質をあげることが、試合で勝ち続けるために必要なことだと断言できる。

最後に1つ、覚えておいていただきたいのが、「選手の分析方法に正解はない」ということだ。今回は西藤選手の事例として紹介したが、分析の方法などは、その人の感覚によって異なるもので、全員が同じことをすると、おかしなことになってしまう。

だからこそ、この記事を1つの参考として見てもらい、はじめは本記事の方法を自分で真似してみて、そこから自分なりの分析方法ができればいいと筆者は考えている。

試合で勝つのは簡単なことではないが、こうした取り組みをすることで、試合での勝率が大幅に変わってくる。結果、努力が実って表彰される時、これまでの苦労が報われると同時に、その選手は新たなステージに立つことができる。その時の喜びを、是非その肌で感じ取っていただきたい。


【筆者主宰】騎士のスポーツ、フェンシングを始めませんか?

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最初にイメージするのは、中世の剣士たちが繰り広げる激しいバトルだと思いますが、そのバトルをスポーツにしたものが、このフェンシングです。

剣をつかっているので、”チャンバラごっこ”に近いとも言われ、普段やりすぎると怒られるチャンバラごっこも、ここではやった分だけ褒められます。さらに、フェンシングは別名”筋肉を使ったチェス”とも言われており、相手の裏をかく戦いをすることから、頭を使う練習にも最適です。

墨田フェンシングクラブでは小学生から大学生までを中心に、全国トップクラスの実績を持つコーチが、フェンシングの指導を行っています。

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ABOUTこの記事をかいた人

1989年生まれ、愛知県出身。中学から大学までフェンシング選手として活動し、高校で全国7位、大学時代には全国4位に入賞(両方とも種目はエペ)。現在はWEBメディアの編集者として、記事の執筆、編集などを行っている。プライベートでは墨田フェンシングクラブの代表を務め、子供から大人まで幅広い世代を指導するコーチとして活動している。