「フェンシングをすると、技術以外にどんなことが身につくんですか?」
これは、これからフェンシングを始めたい、もしくは子供に始めさせたいという人によく聞かれる質問で、多くの指導者が「礼儀作法、スポーツマンシップの精神が身につきます」と答えていることだろう。
それだけ聞くと『なんだ、他のスポーツと同じじゃないか』と思われる方も多いと思うが、実は大きく違うところがある。それは、フェンシングの礼儀作法が、中世の騎士たちから脈々と受け継がれてきた「騎士道精神」を元にしているということだ。
騎士道精神とは、ただ相手を叩きのめせばいいという考えではなく、相手を尊重するところも含めて1つの戦いという考え方。ゆえに大会になると、試合の前後でお互いにあいさつをし、終わった後も、お互いの健闘をたたえ合うように握手を交わす。
これがフェンシングが”礼に始まり、礼に終わるスポーツ”と言われる由縁だ。
この考えに基づき、指導に当たっている練習場が多いわけだが、その中でも先進的な取り組みをしている練習場がある。
東京都荒川区にある「ダウンタウンフェンシングアカデミー(以下、DFA)」だ。
同練習場では、騎士道精神の教えのもと、礼儀作法を大切にしながらも、選手の自主性を重視した指導を行っている。
その取り組みの一環として、生徒自身がトレーニングメニューを考え、実践している。新しく入会してきた生徒を指導するのも、同じ生徒という徹底ぶりだ。
もちろん側でコーチが見守っているが、ここまで選手の自主性を重んじた練習場は他ではあまり見られない。まさに”究極の自主性”を学ぶことができる練習場なのだ。
「フェンシングの楽しさをもっと知ってもらいたい。」
そう話すのは、DFA代表の近藤 昌義先生。20年以上のコーチング経験をもつベテランであり、筆者が現役だった頃の恩師でもある。
その近藤先生に、DFAを始められたきっかけから、ここで学べることについて直接伺うことができた。
目次
DFA起ちあげのきっかけ
当時は様々な場所でコーチをしていたので、選手にあわせて移動をしていました。しかし、それだと時間もロスしてしまいますし、効率もよくなかったんです。
そこで、もし本当に私とフェンシングをしたいということであれば、選手の方から来てもらった方が早い。それで練習場を起ち上げようと思いました。
そして計画書も無事通り、2009年の4月、『ダウンタウンフェンシングアカデミー』を設立するに至りました。
DFAを設立してから取り組みたかったこと
そこで、日本でも小学3年生から始めてもらえれば、6年生までの4年間で基礎ができるじゃないですか。ここで、面白いな、続けたいなって思ってもらえれば、中学の3年間も練習を続けられます。6~7年使えれば、私が見てきた近藤流のフェンシングを基礎に落とし込めるわけです。
しかし、ジュニアの指導には経験が不可欠かと思います。ボランティアコーチをしていた時から、ジュニア世代の選手を教えていたのでしょうか?
まず大学で海外の遠征に行けて、本場ヨーロッパのフェンシングを自分の目で見ることができた。これが大きかったですね。
それを持ち帰ってきて、「本場はこうなんだ」と、レッスンに落とし込むことができたので、それを皆さん教わりたいと言ってきたのです。
『限られたスペースの練習場』だからこそ得られるメリット
そのメリットとは、公共の体育館のように広くないからこそ、必ず大人も子供も顔を合わせながら練習できるということです。
広い場所だと、練習をやりたくない人は体育館の隅に行ってしまったりして、そのまま終わってしまうことがあるのですが、当練習場では練習をしたくなくても、フェンシングを見てないといけません。フェンシングに必ずふれてなければいけないという密度が、意外といいみたいなんです。
あとは普通のトーンで話しても言葉や声が通るので、コミュニケーションがとりやすいのも強みですね。
例えばファイティングをする際、横の人とぶつからないようにコーンを置いて、そこから出ないようにするといったルールですね。やはり練習場が狭い分、ふざけて顔を出したりしたら、体や剣がぶつかってしまいますし、危ないんです。
ちょっとした緊張感というか、厳しいルールがあって、それを守りながら練習しましょうというのが、DFAのやり方なんです。
だからこそ、神経を張り巡らせてないと、ケガや事故につながるということを常々感じています。それでうちでは「安全第一」を掲げているんです。
そうじゃないと団体自体の運営ができなくなってしまうんです。やはり誰かがケガをしてしまうと、信頼度が落ちますからね、そこは徹底しています。また、そういう気持ちができる選手になってくれれば、競技のパフォーマンスも上がってくるんです。
ただ、せっかく自分たちでフェンシングをやりに来ているのであれば、いい方向に向けてあげるのも指導者の役目だと思いますし、一方的にやらせるよりも「何のためにやってるの? 君たちのためだよ」ということを、繰り返し言うことで、子供たちに理解してもらうようにしています。
それに、ここは自分の部屋ではないので、人の物があるわけです。そういうところで助け合いながら、協調性を覚えさせたりしています。
”勝てばなんでもいい”というわけではありません。必ずスポーツにはスポーツマンシップの精神があって、競技がある。ここを取っ払ってしまうと、絶対におかしなことになってしまうんです。
フェンシングだからこそ身につくこと
最近、世界ベテラン(40歳から出場できる大会。出場するには、各国の予選を勝ち抜かなければいけない)に出場してきましたが、サリュー(フェンシングの試合前後に行う挨拶)で始まってサリューで終わる。ベテランの世界でも徹底してやられていますね。
いくら結果が自分の思い通りじゃなかったりですとか、憤慨して審判がなんだと言っても、必ず開始線に戻らされて、サリューして握手で終わらさせるのはもう当たり前になってきたんです。
面白くないからといって、マナー違反するのはダメ。やっぱり礼儀は求められているんです。
世の中的にもそうだと思います。まだまだ成果主義なところはありますが、やっぱり世界にしても環境のことですとか、天候のこと等で、すごく注目されてきてるじゃないですか。
ヨーロッパは伝統を重んじるところがありますから、フェンシングもすごく伝統を意識しているスポーツなんです。
だからこそ、マナーには厳しく取り組んでいる。
そういう視点でいくと、意外と指導をする際、活用しやすいんです。「フェンシングってそうやらないと認めてもらえないよ」といった具合ですね。
だから礼儀、挨拶の両方の側面から、ちゃんと最後までやるというところに落とし込めればいいんじゃないかと思いますね。
選手を指導をする際、心がけていること
”これが私なりのフェンシングです”といった感じですね。だから個性をつぶしてしまうと、個々の特徴が活きなくなってしまうと思うんです。ただし、さっき言ったように、スポーツのルールの中でやらなければいけない。だから乱暴じゃダメなんです、乱暴にやったら喧嘩になってしまいますから・・・。
ここがスポーツのいいところです。感情のままにやったら動物そのままなわけで、うちでフェンシングを始めようと言っている子たちには、そこを徹底して指導しています。
面白くないからと剣を振り回してしまえば、チャンバラですし、ルールも必要ありません。もっと言うと、ちゃんと練習に取り組まないということは、公園で遊んでいるのと一緒なんです。
練習場に来たからには、しっかりと取り組まなければいけません。そうした切り替えをしっかりするように指導しています。
練習の意識を高くするには、目標を設定することが大事
この”目標を持たせる”というのは、どこの練習場でもやっていることなのですが、この本当の意味を理解したのは、つい最近なんです。
しかも教えてくれたのは、他でもない教え子たちでした。それはいつものように子供達の練習を見ながら、”意識を高く”ということを問いかけていた時のことでした。
子供たちに「どうして意識を高くする必要があると思う?」と問いかけていたら、その内の1人がこう言うんです、「目標が無いからだと思うんです」と。
子供たちの指導において難しいのは、やる気を継続させることです。”強くなる”もしくは”練習する”という意識をもっていなければ、何をしても中途半端になるので、練習をする意味もありません。
それを防ぐための問いかけだったのですが、その教え子の言葉を聞いてその時ハッと気づかされました。
目標を持っていないからぼんやりするんですと。あぁ、そうだ、意識だとか気持ちなんて誰でも多分持っているものなんだ。目標が無いとぼんやりしてしまう、だから意識が高まらないんだと。だから目標を持ちなさいと言われるんだなと。
できる、できないは別として、目標が定まらないと行動に移せませんから。
目指すべきものがないから、”思ってました”、”やるつもりでした”となってしまい、結局無駄に終わってしまう訳です。だから大きな目標と小さな目標を2つ掲げてみるといいかもしれません。
私は達成できませんでしたが、大きな目標は「オリンピックに出たい」ということでした。小さい目標は「ふりこみ(技名)ができるようになりたい。」といった具合ですね。
そうした自分に足りないところを補えるような目標を立てていくのです。
フェンシングを始めるからには、強くならなければいけないのか?
フェンシングは、始めた人全員が強くなれるわけではありません。そのための動機づけ、きっかけは、まず競技の楽しさを知ってもらう必要があります。
ただ、この楽しいというのは2つの種類があって「勝つことが楽しい」つまり強い子は楽しいんですけど、そうじゃなくても「フェンシングをやっているだけで楽しい」という子供たちもいるんですよ。
私は2つあっていいと思うんです。”強くないとつまらない”にはしたくありません。
だからまず、フェンシングをしていて楽しいと感じさせるのが、最初の目標です。次に、競技の方に行きたいという子には強くなるための指導を行いますし、このままここでやって、学校意外の友達を作りたいという子には、それに適した環境を用意します。
どちらの楽しみも一緒ですし、楽しいの先にもっと楽しいことがあるということを伝えたいんです。
これはDFAの面白いところなのかもしれませんが、実はうちって、ファイティング(審判機を使った実践練習)に関しては、すごく短いチームなんです。
練習時間2時間のうち、ファイティングは3、40分くらいしかやりません。あとの60分くらいはステップさせたりですとか、剣で壁を突いたりしています。意外とトレーニングの方に時間を費やしているかもしれません。
面白いもので、力をつけてくる頃に限って壁突きをよくやっています。私も「今日の調子どうかな」と考えた時、よくやったものです。俗にいうイメージトレーニングですね。
ジュニア選手のトレーニング内容について
解っていないのですが、知らないうちにバランスが良くなっているという練習をたくさんやっています。
生徒を指導するのは同じ生徒!?
指導する際に意識していること
これからフェンシングをはじめる人に知っておいてほしいこと
私はフェンシングを始めて外国の知り合いがものすごく増えました。
道具について
まとめ
通常、どこの練習場も週1で練習しているところが多いが、DFAでは日曜日以外全ての日に練習することが可能だ。
土曜日になると、ジュニアフェンサーたちが自主的に集まって、『何のために練習するのか?』を意識しながら、自分たちで練習内容を決めているという。
これは『個性を潰さない為の時間に使って欲しい』という、近藤先生の考えから実現したもので、自主性を重んじるDFAならではの取り組みだ。
筆者自身もこの練習場で学んだことは多くあり、その中でも印象的だったのは、”基礎を重視しながらも、本格的なテクニックを学ぶことができる”ということだった。
この練習場にはフェンシングで強くなるために必要な”質”も”量”も、全て揃っている。
これから、フェンシングで上を目指したい、趣味で楽しくやりたいという方には、同練習場への入会をオススメする。
【施設名】
ダウンタウンフェンシングアカデミー
【住所】
東京都荒川区西日暮里4丁目1-18
※東京都内、山手線「西日暮里駅」徒歩2分。
【料金】
入会金¥10,000
▼月会費制
正規会員 月会費¥12,000
他所属会員 月会費¥13,000
▼チケット制
正規会員 ¥14,000(6回チケット)
他所属 ¥15,000(6回チケット)
【お問い合わせ先】
▼電話番号
03-3824-7190
早速ですが、DFAを始められたきっかけについて教えてください。