『一番トレーニングを入れようと思ったきっかけは、世界で勝ちたいと思ったからなんです。』
これは、太田 雄貴氏がスポーツトレーナーに指導される”トレーニング”を取り入れたきっかけについて問われた時の言葉だ。
太田氏は、大学1年生の頃にスポーツトレーナーと出会うまでは、自分で腹筋、背筋などのトレーニングを行っていた。
しかし、国内ならまだしも、身長が低い太田氏が世界で勝つためには、海外の選手よりも秀でているものがなければいけない。そこでトレーナーからトレーニングの指導をしてもらうことで、体のキレ、敏捷性などを身につけることができたのだという。
それからというもの、太田氏は2度のオリンピックで銀メダルを取り、2015年の世界大会では優勝するに至った。
この事例からもわかる通り、トレーナーが指導するトレーニングは、アスリートの体に及ぼす影響が一桁ほど違う。
更にフェンシングという競技について理解があるトレーナーであれば、フェンサーにとってこれほど心強い存在もいないだろう。
『でもフェンシングはマイナー競技だから、そんな競技の特性を理解した人っていないんじゃないの?』
そう思われる人もいるだろう、実はいるのだ。
場所は神奈川県の日吉、駅を降りて商店街を抜けたところにあるジムに、そのスポーツトレーナーはいる。
ジムの名は『Y.T.G CORE』。
現在小学生から80代までの幅広い世代が利用しており、一人一人に合わせたメニューを分かりやすく指導していることから、プロのアスリートからコーチまで、多くのスポーツ関係者からの支持を集めている。
そしてこのジムの代表であり、フェンシングナショナルチームのスポーツトレーナーを務めているのが、辻 健一郎氏だ。
『ご来店いただいたお客さまが確実に・元気に・プラスになってお帰りいただくことを目標にしています。』
そう語る同氏は、フェンシングナショナルチームのスポーツトレーナー以外にも、法政大学アメフト部・慶応大学男子ラクロス部・神奈川県高等学校アメフト選抜チーム・スピードスケート ショートトラックナショナルチームなど、数多のチームをサポートする熟練のトレーナーだ。
その辻氏がフェンシングという競技を見てきて感じとったこと、そしてナショナルチームを指導してきた上で、これからフェンシングをする人がトレーニングをする上で大切になってくることについて、詳しく伺うことができた。
この記事は『今フェンシングをしていて行き詰まっている』『怪我をしてしまってどのようにトレーニングすればいいのかわからない』という人に向けて書いている。
少し競技者向けの記事になってしまうが、上記の理由に該当する人には、ぜひ読んでいただきたい。
目次
アスリートのパフォーマンス向上のために、同氏が意識していること
”いい姿勢”と”いい加重”で、ちゃんと立つことができれば、床に力を伝えられている証拠になるので、まずは基本としてスクワットトレーニングをやってもらっています。
逆にスクワットトレーニングがちゃんとできていなかったら、その先のメニューはうまくいきません。
当ジムでは、その選手の体力レベルにあわせて、重りを前で持ったり、背中に担いだり、あとは片足立ちになって行う”ブルガリアンスクワット”をしたりなど、色んな種類のスクワットトレーニングを用意しています。
椅子やベンチなどに片足を乗せて、片足で行うスクワット。主に大殿筋などの、お尻の筋肉を鍛えるのに適している。
来店する客層について
先ほどお話した通り、基本となるのはスクワットトレーニングですから、皆さん、自分がやっているトレーニングと似てるなぁ~と思いながら、スポーツの垣根を越えて、ワイワイやってもらっていますよ。
怪我をしたアスリートへの指導について
また、関節内や骨の炎症が疑われる場合は、上記に加え電気治療や超音波療法、徒手療法も合わせて行います。
基本的にフェンシングは、片側でしか強い踏ん張りをしないスポーツなので、どうしても筋肉のボリュームであったり、筋力において左右差が出てくるものなんです。
そういう競技の特性を選手たちにしっかりと理解してもらったうえで、トレーニングの時間やセルフでできる時間を活用して、逆側の体の使い方や、体の力みについて、伝えたうえで取り組んでもらうという指導を行っています。
それでも調子が落ちてきてしまった場合は、ドクターの診断のもと、やるべき運動療法と腰回りに悪影響が出ないようなトレーニングを、状態結果を見ながら進めていくようにしています。
しかし、それだけだと腕と足のバランスが重要になってくるフェンシングでは、怪我から復帰した後のパフォーマンスが落ちることに気づいたんです。
そういうところをY.T.G COREでは指導してもらえるということでしょうか?
体幹トレーニングにも多様な種類があり、例えば、昔からある『頭起こし』や『足下ろし』であったり、腹直筋という表面に主に効かせるような動作もあれば、呼吸を使ってやる”腹圧”を高めてあげて、しっかりと安定した体幹周りになるようなトレーニング法もあります。
そういったことを、腰痛の初期段階からやっていくことで、いろいろな負担が軽減されるのです。
そうした患部のリハビリであったり、トレーニングをやっていきつつ、もともと弱いであろう部分のエクササイズも、上下のバランスを考えながらやっていくと上手くいきますね。
例えば、肩周りのケガ(亜脱臼など)であれば、『インナーマッスル』のトレーニング不足などが挙げられますが、そういう細かい筋肉を鍛える方法も教えていただけるのでしょうか?
今のインナーマッスルの話で言えば、肩周りの筋肉(肩、首、肩の奥の筋肉など)を刺激する”不安定系のトレーニング”もありますし、”チューブを使って丁寧に動きを理解していきながら刺激を加える”という方法もいいでしょうね。
他にもトレーニングの時間だけではなく、ウォーミングアップの一部にそういった細かいトレーニングを取り入れてみたりですとか、復帰した後も活かせるトレーニングのアドバイスなどもさせてもらっています。
フェンシング日本代表のスポーツトレーナーを務めることになった経緯について
ちなみに近藤トレーナーとは日本スポーツ協会のアスレティックトレーナーの資格取得の際の研修でご一緒させていただきました。
フェンシング日本代表選手たちの印象
基本となる技術は同様にレッスンされているはずなのに、戦術によって違いが出てくる、本当に奥の深い競技だと思います。
それまでの競技歴もそうでしょうし、それが一番しっくりきているからか、”足の向き”もいろいろとアレンジされているんです。
そうしたところを見て、まず『なるほど』と思いましたね。
あとは自分からアタックで飛び込むだけではなく、駆け引きをしてる中で、向こうの動きを先読みし、アタックに行けるということは、やはりトップ選手だからこそできることなのだと思います。
あと”速さ”ですね。とにかく速さが尋常じゃありません。
本当に見えないんです。
それを可能にしているのは、やっぱり”体幹”と”足の踏ん張り”。一言で言えば『無駄がない』ですね。
ナショナルチームの選手たちは、トレーニングをすごい大事にしているという印象があって、実際見ていると、練習が終わった後にウェイトトレーニングなどをしていたので、フェンシング以外の練習を本当に大事にしているな、という印象を受けました。
辻代表からはどのように見えたか、教えていただいてもよろしいでしょうか?
まず、日本代表のサポートをしていると、選手たちは練習を少し早く切り上げて、『トレーニングに行ってきます』とばぁーといなくなってしまうんです。
それから選手ごとに様々なメニューをこなしていくのですが、練習の中でいい感触が入ったところを、より継続的に感触を取っておくためにも、取り組んでいると思うんです。
普通の競技であれば、あれだけしゃがんでステップワークを踏んでいれば、足回りは疲労してパンパンのはず。でも彼らは日本の国旗を背負ってやっている気持ちが強いので、その辺が一般の選手とは一味も二味も違う意識で、日々の練習に取り組んでくれてますよね。
印象的だったのは2017年、世界選手権で銀メダルを獲得した西藤俊哉選手が、週に2回くらいで重量のある重りでウェイトトレーニングをやっていたり、最近は体の動きを高めるために軽い重りでのトレーニングを行っているということでした。
それを聞いて、ある程度まではフェンシングの練習だけでいけるんですけども、それ以上上を目指すのであれば、これからのトレーニングは非常に重要だと感じました。
そこで辻代表に伺いたいのが、フェンシングの練習と、トレーニングのバランスです。どのくらいのバランスで、自重トレーニングや、機械を使ったトレーニングを加えていけばいいと思いますか?
ただ、フェンシングはアメフトやラグビーのように、筋肉を大きくして、それを維持していかなければいけないかというと、そういうわけではないんです。
『筋肉をつけて、動きを強くしましょう』という認識よりも、筋肉に強い出力を出すための刺激を加えてあげる。つまり、強く力むことを教えてあげるというのが、フェンシングの選手からすれば、筋トレをする中で一番イメージがつきやすいと思うんです。
他のスポーツにも言えますが、体の使い方だけではなくて、単純にスクワットやデッドリフトみたいな、大きい筋肉にドンっと力を入れるためのトレーニングもやらなければいけません。
実際、本当にトップの選手はやっています。
フェンシングの選手であれば、『筋肉のボリュームをいっぱいつけましょう!』とか『いい体を作りましょう!』というのもいいんですけど、筋肉ってやっぱり力を強く発揮できるものなんですよ。
ちゃんと強い力を出すための刺激を入れるという考え方をしてくれると、トレーニングは上手くいくと思います。
例えば、前足の着地が上手くいかない選手がいれば、そういうトレーニングを多めにやった方がいいでしょうし、後ろにステップを踏んでて、避けながら踏ん張る動きが悪いのであれば、その瞬間にちゃんと発動するようなトレーニング刺激を与えてあげるといいと思います。
そうではなく、トレーニングで改善することができるのでしょうか?
アメフトとかもそうなんです。ぶつかるための瞬間に、どういうところに力を発揮しているかを考えたら、スクワット動作は頑張らななければいけない、バーベルを引っ張り上げるハイクリーン(※全身を使って、バーベルを床から肩の高さまで一気に持ち上げるトレーニング)を頑張らなければいけないのですが、そうした各種目の『どの瞬間にどのような力を発揮したいか』というところを、テクニカルのコーチ陣とすり合わせしてあげると、すごく上手くいきます。
フェンシングのナショナルチームにおいても、コーチと一緒に『こういう方向に力が入ると、もっといいよね』という相談をよくしています。
よくトレーニングだけだったら、どこでもできると思われがちですが、フェンシングという競技を理解した上でトレーニングを組めるところってまだ少ないと思うんです。
そうした意味で、このY.T.G COREではフェンシングナショナルチームでスポーツトレーナーをしていた辻代表のもと、フェンシング専用のトレーニングメニューを組めるのが強みだと感じました。
まぁでも、そういう”きついだけのトレーニング”も私はいいと思っていて、例えば試合の後半で団体戦とかをやっていると、みんなクタクタになっているじゃないですか。
そうしたクタクタの状態を作った中で、的確にアタックを打てるよう練習するのも、いいと思うんですよね。
あとは試合前半とか、体がフレッシュな状況でも、点数を取れるようになるためには、筋トレが重要になってきます。
トレーニングを組み立てる上で大切なこと
例えば、このようなメニューがあります。
まず、体を伸ばすような”ストレッチ”をやってもらったり、”ロール”を使ったセルフマッサージで刺激を加えてあげることによって、良い筋肉の状態を作ります。
そうした下ごしらえをしてから、軽い動きを伴った四つん這いのエクササイズや、体をひねったエクササイズで肩周りの動きを出しましょう。
それから四つん這いで足を開いたりして、股関節の動きを作っていきましょう、という風に、ちょっとずつアクティベートして行って、少しずつ体幹の方に力を入れていきます。
お腹の方に力が入るようにしてみたり、それでいい状態で肩周りのプッシュアップをして出力あげましょうとか、そういった具合で、下ごしらえを元に各関節だったり部位を狙った、優しめな刺激を入れる、それで全ての練習の時もそうですし、トレーニングの時とかの前にもやってあげる。
そこからメニューを展開していけると、本当に快適なトレーニングができると思います。
そうではなく、最初はウォーミングアップで徐々に体の状態を整えていくイメージでやった方が良いということですね。
おそらく試合において会場に着いてすぐに試合をすることって、余程のことがない限りはないと思うんです。
みんな試合会場に行って落ち着いてから、いろんな準備をして展開していくと思うので、やはり日頃からそういう風に体も作っていってあげると、試合の時にもすんなり体が動いてくれます。
だから野球のイチローさんも打席に入る前もそうですし、各グラウンドについてからのウォーミングアップでも、必ずルーティーンがあるって言っていましたから。
そうした習慣を身につけておくのは、いいかもしれません。
まとめ
今回お話を伺っていて、フェンシングにおけるトレーニングの重要性を改めて知ることができた。
冒頭の太田氏の話でもそうだが、フェンシングの練習だけでは鍛えられないところがあるのは事実。その足りない部分を補うためには、トレーニング、特に熟練のトレーナーから指導してもらうトレーニングは非常に有効となる。
ただ、トレーニングというのは厄介なもので、そう簡単に結果が出るわけではない。さらにこれまでフェンシングの練習のみをやってきたという選手であれば、最初は体になじまないということもある。
そういう事態を乗り越えるためには、根気よく続けていくことと、なぜこのトレーニングをやるのかを理解することが大切だ。
その最初の難関を乗り越えてから、トレーニングは始めてその人の血となり肉となってくれる。
もしも今、伸び悩んでいたり、怪我をしてどんなトレーニングをしていいかわからないという人がいれば、辻氏に相談してみるのもいいかもしれない。
【施設名】
Y.T.G CORE
【住所】
神奈川県横浜市港北区日吉2丁目6 横浜市港北区日吉2丁目6−20 ビーハイヴ1階
※横浜市・日吉駅(東横線・目黒線・市営地下鉄)より徒歩2分。
【お問い合わせ先】
▼お問い合わせフォーム
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