【フェンシングで勝つためのコツ】エペで勝つには『相手との距離』を理解することが大事

ある日、練習場で何人かのエペ選手と実践練習(以下、ファイティング)をしていた時のこと、1人のジュニアフェンサー(男)とファイティングすることになった。

結果は5-1で筆者が勝ったが、ジュニアフェンサーとは思えない素晴らしい攻撃には目を見張るものがあり、試合が終わった後、アドバイスをすることにした。その選手は中学1年生で、相手の剣を抑えて突くのが上手い、典型的な”攻め”タイプ。発展途上ではあるが、磨けば強力な武器になるものをいくつも持っている。

エペでは、攻め型、守り型、カウンター型に分かれており、これらのスタイルはその人の性格や性質が大きく反映される。

例えば、攻め型であれば、前腕部分から積極的に脅かし、相手が怯んだところに、アタックを入れる。

逆に守り型であれば、後ろに下がりながら相手を誘いこみ、攻撃をしてきたところを確実に絡めとる。

カウンター型は相手が攻撃を仕掛けてきそうなタイミングを見計らって、攻撃動作に入ろうとした瞬間に狙ってカウンターを叩き込む。

『決闘がルーツのフェンシング種目、エペについて解説!』より引用

しかしまだ自分の強みを上手く発揮できていないように感じた。距離が上手く扱えていないからだ。

エペは距離、すなわち間合いを上手く活用することで、試合運びを有利に進めることができる。これが上級者同士の対戦になると、自分の有利な距離にしようと陣地の奪い合いが発生するので、チェスのような繊細な攻防が繰り広げられるようになる。

逆に言えば、自分に有利な距離を作れていないと、得意技も出せないし、最悪相手に距離を詰められて、カウンターを受けてしまう。それだけにエペにおける距離というのは非常に重要になってくるというわけだ。

※上記の動画は、エペでカウンターする際によく使われる『ダッキング』という技。

以上の点を踏まえて、まず彼にこうアドバイスした。「自分の距離を理解した方がいい。」

「?」というマークが見えてしまうほど、理解されなかった。無理もない、いきなり理解するのは難しいだろう。

「自分の距離って、どういうことですか?」まっとうな質問がきた。すかさず「相手を突く時に、自分が得意な攻撃をしやすい距離のことだよ。」と答える。

エペは胴体のみを突けばいいフルーレとは違い、全身が有効面。つまり基本的なセオリーとして、まず”腕”から狙いにいく。

※上記の動画のように、自分の剣先に一番近い”相手の腕”を狙うのが、エペにおいて基本的な戦術と言える。

相手の腕を攻撃し、それに対し相手が防ぐのか、距離をとるのか、それともカウンターを狙いにくるのかを見極める。それによって連続攻撃(腕の攻撃から、間髪入れず次につなげる攻撃のこと)につなげ、相手の防御を打ち破っていくのだ。

その時に、先ほど挙げた”距離”が重要になってくる。

※上記の動画は、2019年3月ブダペストで行われたフェンシング男子エペのグランプリ大会決勝。試合開始序盤、まずは両選手とも、剣先で相手を牽制しながら、距離(+タイミング)を測っているのがわかる。4:10時点、左側の見延選手が右側のSANTARELLI選手(イタリア)に腕への攻撃から二撃目(連続攻撃)を入れている。

”自分が得意な攻撃をしやすい距離”というものは、自身の腕の長さ、剣の持ち手の長さ、ファンデブ(アタックをする際のモーション)の伸びによって変わってくるもので、大体の選手が、自分と相手の剣先があわさるかあわさらないかくらいになる。この距離が遠ければ、相手の腕には届かないし、近ければ距離をつぶされてカウンターを受けてしまう。

相手の腕への攻撃を成功させるために、まず自分が得意な距離を覚えることが必要になる。

もちろんエペを始めたばかりのころは、距離など気にする必要はない。まずは、がむしゃらにやることが大事だ。

エペには強くなるための”段階”がある

私の理論ではあるが、エペには段階があると思う。

①エペを始めたばかりの頃は、まず基本の型を覚え、レッスン、ファイティングで反復練習をしていく。(初心者レベル)
②ファイティングをするうちに、自分の得意技ができてきたら、その技でポイントを取れるように、徐々に精度を高めていく。(中級者レベル)
③ここから距離の理解が必要になる。自分の得意な距離を理解し、いかにして相手にその距離で戦わせるかということを考えるようになる。(中級者レベル)
④距離を理解したら、試合の際に必要な戦略を考えるようになる。自分の勝ちパターンを理解し、それを実現できるだけのポイント精度、技の威力を習得できたら、あとは強敵との試合や練習の積み重ねで強豪選手に育っていく。(上級者レベル)

今回の話で出てきた選手は③の段階。まさに、ここから成長できるかの”壁”にぶつかっている最中と言える。

だからこそ、剣を使って相手との距離を測り、いかにして自分の得意な距離にしていくか。フットワークと剣の精度は、この距離を作り出すための手段といえるだろう。それができて初めて自身の得意技も成功するようになる。

『じゃあ自分の得意な距離はどうやって覚えればいいの?』という声が聞こえてきそうだが、これは自分を理解することが大切だ。

例えば、下記の基準で考えてみよう。

フェンシングで自分を理解するための基準

基準1:自分はパワーがあるタイプか、そうではないか。
基準2:ファイティングにおいて、攻撃、防御、カウンターどれが一番得意か。
基準3:普通の突き、ディガジェ(相手の剣を避ける技)、バッテ(相手の剣を叩いて突く技)、ガードで相手の剣を巻き込む技、どれが一番得意か。
基準4:剣の持ち手は何を使っているか。
基準5:フットワークは軽いタイプか、それともどっしりと構えるタイプか。

これらを基準に、自分がどのような選手かをまず理解する。

例えば、基準1:パワーが弱い、基準2:カウンターが一番得意、基準3:ディガジェが一番得意、基準4:持ち手はフレンチ(棒状の持ち手)、基準5:フットワークは軽い、ということであれば、相手に剣を捉えられないように、少し遠目の間合い(お互いの剣先が触れない程度)にするといいだろう。

逆に基準1:パワーが強い、基準2:攻撃が一番得意、基準3:バッテが一番得意、基準4:持ち手はビスコンチ(パワーのある選手がよく使用する持ち手)、基準5:どっしり構えるタイプ、であれば、相手の剣を捉えられるように、近めの距離(お互いの剣先が交差する程度)にすると有利に戦える。

このように、その選手のタイプによって、得意な距離は大きく異なる。

あとは練習、とりわけレッスン、ファイティングを積み重ねて、自分の理想の距離を見つけていくことが大切だ。

エペにおける距離の理解というのは、強くなるために必要なものであるし、人によって形を変える曖昧のものでもある。

しかし、筆者の経験上、距離を理解しなければ強豪選手に打ち勝つことは難しい。

今回アドバイスをした選手も、最初は理解するのに苦戦していたが、上記の基準を伝えた上で、具体的な距離感をレッスンしたところ、次のファイティングでは、距離感を変えてくるなどの工夫をしていた。

そうした試行錯誤の末、身につけた距離という名の技術は、その選手が試合で勝つための強力な武器になってくれるだろう。

近年、筆者が現役であった2010年頃よりも、エペのレベルが上がっている。

2019年に入ってから、日本代表のチームが世界選手権の個人優勝や団体優勝を成し遂げるなど、日本のエペは確実に成長を遂げている。

その競技に本格的に取り組んだ身として、より多くのフェンサーに距離の大切さを理解していただき、このエペという種目のレベルをさらに上げるための一助になれば、この記事を書いた身として、非常に喜ばしく思う。


【筆者主宰】騎士のスポーツ、フェンシングを始めませんか?

フェンシングというスポーツを知っていますか?

最初にイメージするのは、中世の剣士たちが繰り広げる激しいバトルだと思いますが、そのバトルをスポーツにしたものが、このフェンシングです。

剣をつかっているので、”チャンバラごっこ”に近いとも言われ、普段やりすぎると怒られるチャンバラごっこも、ここではやった分だけ褒められます。さらに、フェンシングは別名”筋肉を使ったチェス”とも言われており、相手の裏をかく戦いをすることから、頭を使う練習にも最適です。

墨田フェンシングクラブでは小学生から大学生までを中心に、全国トップクラスの実績を持つコーチが、フェンシングの指導を行っています。

あなたも、剣をつかった特殊なスポーツで、非日常を感じてみませんか?


ABOUTこの記事をかいた人

1989年生まれ、愛知県出身。中学から大学までフェンシング選手として活動し、高校で全国7位、大学時代には全国4位に入賞(両方とも種目はエペ)。現在はWEBメディアの編集者として、記事の執筆、編集などを行っている。プライベートでは墨田フェンシングクラブの代表を務め、子供から大人まで幅広い世代を指導するコーチとして活動している。