フェンシングをする上で、必須となるアイテム『剣』。
あまり馴染みがない方には、鋼鉄でできている剣にどのような違いがあるか、わからないことも多いのではないだろうか。
大雑把に言ってしまえば、剣の違いは『硬度』と『長さ』にあり、この2つの特徴を見ながら、自分にあった剣を選べるかが、フェンシングを嗜む者にとって重要になってくる。
『いや、フェンシングの剣なんて、なんでもいいよ。』
そう思っている経験者がいることも否定はしない。ただ、意外に思われるかもしれないが、剣は人によって相性があり、何となく剣を選んでしまうと、自分のプレイスタイルと合わずに、うまくポイントが突けないなど、後々後悔するような事態にまで発展しうる。
では、どのようにして剣を選べばいいか? 本メディア『Fence』では、”初心者の方が自分にあった剣を選べるようになる”ところまでを目標に、種目ごと(フルーレ、エペ、サーブル)の剣選びのコツについて紹介していく。
第1回目は、日本で一番メジャーな『フルーレ』で使用する剣の選び方を、初心者向けに解説していきたいと思う。
目次
フルーレとは?
フルーレは、フェンシング3種目の中で最も有名な種目であり、かの太田雄貴選手もこの種目で北京、ロンドン双方のオリンピックで銀メダルを獲得している。
その特徴は、『攻撃の優先権の尊重』にある。
例えば、相手を突く為に先に動き出した選手Aがいるとする。相手の選手Bは後ろに後退したので、この場合、先に動いた選手Aに攻撃の優先権が生じる。
この状態でお互いポイントを突いても選手Aのポイントになる。
では選手Bはどうすればいいか?非常にシンプルで、相手の剣に”触れる”ことができればいい。
相手に先に動かれ、後退した場合は、その剣を払ったり、防いだりすることで、選手Bに攻撃権が移行する。
このように攻撃→防御→反撃→再度反撃といった瞬時の技の応酬が、この競技の見どころと言えるだろう。
フルーレで使用する剣の特徴
フルーレ剣は、剣の長さ110cm以下、重力500g以下、ガードの直径12cm、ガードから先端までは、90cm以下。細身で軽く、ブレードの断面は四角い形状をしている。
意外と知られていない剣の選び方
フェンシングの剣選びでまず重要になるのは『剣の硬さ』。
前項でもお話しした通り、剣はその硬さによって、突きの精度にも違いが出てくる。
では『硬い剣』と『柔らかい剣』それぞれに向いているのがどのような人なのか?下記に解説していく。
硬い剣が向いている人
硬い剣は、安定した突きを繰り出したい人に向いている。
その理由は剣先の”ぶれ”。
実は剣の先端は意外にもぶれやすく、狙った箇所を正確に突くには、ぶれが少ない硬い剣の方が安定している。
その性質上、突きに高い精度が求められるフェンシング競技者の中には、好んで硬い剣を選ぶ人もいるほどだ。
最近では、鉄に独自の素材を練りこむ事によって、意図的に剣を硬くするシリーズまで販売されており、今後も硬い剣の人気は高まっていくことが予想される。
デメリットも・・・
硬い剣は柔らかい剣に比べて数グラム重くなりがちで、突いた後の反動も強いことから、女性や子供(中学生以下)にはあまり使い勝手がよくない。どちらかというと、腕力に自信のある人や、経験者向けの剣であると言えるだろう。
柔らかい剣が向いている人
柔らかい剣は、突いた後の反動が優しい分、初心者や女性、子供(中学生以下)に向いていると言える。
フェンシングショップでも、柔らかい剣を購入していく初心者や子供は多いとのことだ。
また、経験者でも”振り込み”などの、剣をしならせるのが得意な選手に向いている。振り込みとは、剣をしならせて相手の背中などを突く技の事で、かの太田雄貴選手も、この技を得意としていた。
アクロバティックに攻めたい、フェンシングの剣に慣れたいという方は、柔らかい剣を選ぶことをお勧めする。
購入する時は要注意!剣の長さについて
剣の長さには1号剣から5号剣と、それぞれ分かれている。
小学生低学年だと0号剣、小学生3年生以上になると2号〜3号剣が多くなるという。
剣の長さは、1号ごとに2.5センチずつ変わり、最近では、高校生や大人でも『短い剣の方が使いやすい』と剣の長さを短くする人も増えているという。
※大人で剣を短くすると、不利にはなるが、その分軽くなる。
完成剣だとガードも付いてくるが、軽量ガードなどに変更することもできる。ただ子供の場合は元から軽いので、そこまで重量にこだわる必要もない。
各ショップに聞いた、初心者にオススメの剣について紹介
東京フェンシング商会
東京フェンシング商会では、初心者向けに『ウクライナ』をオススメしているのだという。
その理由として『安い』ということもあるが、初心者が初めて剣を持つ上で、ウクライナは一番扱いやすい剣であるためだ。
フルーレ電気ブレード TFポイント付 5,600円
※ガード、持ち手が全てついた『電気剣セット』だと8,360〜8,530円
KFE京都フェンシング用品
KFE京都フェンシング用品も、東京フェンシング商会同様、『ウクライナ』をオススメしている。
剣の価格表はコチラ!
※サイズ欄に『#0〜#5』という記号があるが、これは剣の長さを表している。
東京フェンサーズ
東京フェンサーズでは、他のショップと異なり、初心者向けに『レオンポール エトワール GTポイント』をオススメしているとのこと。
ホームページには記載がないが、他のポイントと比べてポイント部分が頑丈でつぶれにくいという。
レオンポール エトワール GTポイント 7510円
※ガード、持ち手が全てついた『電気剣セット』だと約11000円
剣の寿命について
剣の寿命は、使い手によって大きく変わる。
例えば、近距離で相手を激しく突くスタイルの選手であれば、その分剣が受けるダメージも増えるので、必然的に、寿命は短くなる。
逆に、剣の負担がかからないように、近すぎず、遠すぎない間合いで勝負ができる選手の剣は、非常に長持ちする。
フェンシングショップで聞いた話によると、上記で紹介した”ウクライナ”の剣も、早い人だと1~3か月。長い人だと1年ほど持つのだという。
大切に扱えば長持ちするというのは、どのスポーツでも共通して言えることなのかもしれない。
フェンサーにとっての剣とは
フェンシングの源流である剣技を生み出した、中世ヨーロッパの騎士たちは、剣に家紋を彫り込むことによって、一族の名誉の象徴としていた。
現代のフェンサーにとって、剣とは必要不可欠なアイテムであり、共に戦う戦友でもある。
また、1つの試合で勝利を収めたら、思い出の品にもなる価値あるものだ。
剣を選ぶ際はただ選ぶだけではなく、長く付き合う相方として、剣の硬さ、それに長さに注意を払って選んでもらいたい。