フェンシングウェアが新たな領域へ デサントの新フェンシング競技ウェアが初のお披露目

デサント フェンシング 発表会

株式会社デサント(以下デサント)が開発した新フェンシング競技ウェアが、20191016日(水)に初めてお披露目された。

これまでフェンシングウェアといえば、日本人の体型にあわない海外製のものが主流で、洗濯すると縮むという課題もあった。

そこでデサントは、同社が得意とするパターン設計のノウハウを駆使し、日本人選手の体型にあわせて設計。より動きやすくすると共に、強度を保ちつつも縮みにくい、国産オリジナルの生地を使用することで、上記の課題を見事に解決してみせた。

そんなフェンシングの新競技ウェアが、フェンサーのパフォーマンスをどれだけ高めることができるのか?

今回は筆者が本発表会に招待されたので、デサントに直接話を聞くことができた。

これまでの競技ウェアとの違い

デサント フェンシングウェア

今回の発表会では、開発担当者の今橋 剛大氏によるプレゼンテーションが行われ、その後、世界大会で優勝経験のある見延 和靖選手(世界ランキング1位)、加納 虹輝選手(世界ランキング5位)による、新フェンシングウェアを着用したデモンストレーションが行われた。

今橋氏曰く、新フェンシングウェアのポイントは、大きく3つあるのだという。

今橋氏

『新フェンシングウェアがこれまでのウェアと異なるところは「①素材」「②サイズ感」「③カッティング」です。

まず「素材」については、東洋紡STC株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:西山重雄)と共同開発したものを使用しており、一番の開発ポイントが、洗濯しても縮みにくいところかなと思っております。

従来のフェンシングウェアは、ほとんどがヨーロッパ製で、洗濯すると縮みやすいと選手から聞いておりました。そこでデサントとしてはここをなんとか改善したいと思い、素材開発を進め、結果的に弊社のスポーツウェアの洗濯基準をクリアするような安定した素材を開発することに成功。他のフェンシングウェアと差別化ができる、1つのポイントになっております。

2つ目の「サイズ感」については、今申しあげた通り、従来のフェンシングウェアのほとんどがヨーロッパ製のものでしたので、日本人の体型にマッチしておりませんでした。一方、デサントのウェアは、日本で活躍している選手の方々からの要望を聞き取りながら作り込んでおりますので、日本人の体型にマッチする仕様になっております。

3つ目の「カッティング」については、弊社が最も得意としているところで、長年のパターン設計ノウハウを駆使した「モーション3D」というカッティングを取り入れております。

具体的に申しますと、フェンシングの基本姿勢や、動作に基づいた形でカッティングをしておりますので、フェンシングの動きに追随しやすいような形状でウェアを作っております。

例えば、ジャケットの脇の部分です。通常フェンシングというのは、腕の上げ下げであったり、突き伸ばしと言った動きが激しいスポーツなので、今回のウェアでは、この脇の部分の切り替えを無くして生地を1枚使いにしております。そうすることによって縫製による縫止り(ぬいどまり)が無くなり、腕の操作性がしやすいように仕上げております。

また、パンツも基本的にひざを曲げた状態で行うフェンシング競技の特性に沿った形で、最初から膝が曲がった形状で作られており、攻撃の際に大きく股を広げる動きにも対応できるよう、股の部分の糸目を大きく持たせるなどして、フェンシングの動きに追随するような工夫を盛り込んでおります。』

これらの開発ポイントでデサントが特に重要視しているのが、フェンサーの動きやすさを追求していることだろう。

動きやすいウェアとは、「自身の動きをストレスなく発揮することができるウェア」のことで、より軽く、より動きやすく、より体にフィットするウェアのことを指す。

実際、ウェアがフェンサーのパフォーマンスに与える影響は大きく、ここを蔑ろにすると、試合で思わぬしっぺ返しを受けることがある。

こんな事例がある。過去に素材が硬く、身体にフィットしていないフェンシングウェアを着ていた選手の話だ。

その選手の持ち味は、相手を追い詰めてからの「伸びのあるアタック」だったが、着用していたフェンシングウェアは、素材が硬く、生地自体の伸びもなかった。

更に、その選手の太ももが平均よりも太めだったため、パンツもパツパツ。アタック動作(股を大きく広げて相手に踏み込む動作)をしても、ウェアに余裕がなく、生地も伸びない為、大きく股を広げられず、本来のアタック動作ができないでいた。

それでもアタックが打てない分、他の技でカバーすると試合に出場したが、結果は惨敗。持ち味であるアタックが打てなかったため、相手を追い詰めても決め手に欠けたことが原因だった。

この事例からもわかるとおり、自分の思うように動けないということは、フェンサーにとって大きなストレスになる。やっかいなことに、このストレスは緊張感が高い試合の時ほど感じてしまうものだ。

だからこそ、ウェアにこだわる選手も多い。身に付けるウェアが自身のパフォーマンスに多大な影響を与えることを知っているからだ。

今回発表された新競技ウェアは、選手がストレスを感じることなく動けるよう「軽さ」、「日本人の体形にフィットするサイズ感」、「競技属性にあわせたカッティング」に配慮して作られている。更にフェンサーを悩ませてきた、ウェアに溜まる熱を逃がす通気性能もあるので、身体に熱が溜まらない分、疲労もしにくい。

まさにこれまでのフェンシングウェアからバージョンアップされた、フェンシング競技ウェアの新境地と言える完成度といっても、過言ではないだろう。

こんな苦労話も

今回発表された新競技ウェア、日本フェンシング協会の協力も得て、順風満帆に作られた感じもするが、実はかなり苦労して作られている。その中でももっとも大きかったのが「モノづくりの面」「連盟の承認を受ける」ことだった。

「モノづくりの面」については、デサント がフェンシング競技のウェア開発が初めてだったので、まずどういう動きをするスポーツなのか?どんなルールがあるのかを勉強しながら、物作りを進めていった。

ある時、自信をもって選手に着てもらった試作品も微妙な反応をされたそうで、企画メンバー、販促メンバー、工場で縫製をしているオペレーターとも協力して、完成まで漕ぎ着けた。

そこからさらに「連盟の承認を受ける」必要があった。フェンシングウェアは、スポーツウェアという以前に、防護服であるため、試合に出れるようなウェアを作る為に、ヨーロッパにある特殊な試験機関に試験をお願いする必要がある。そこで合格したものが、フェンシング国際連盟の方に回って、承認を得たら、はじめて試合で使えるようになる訳だ。

デサント フェンシングウェア ロゴ

「FIE」はウェアの中でも最も頑丈で、国際基準をクリアしている証。

ただ、日本では前例がないということで、どんな書類を提出したらいいのか?どんな作業でものがすすんでいくのかが、全く未知だったため、太田会長を始め、国内フェンシング連盟や、国際フェンシング連盟などにサポートしてもらいながら、一つ一つクリアにしていった。

実際に着用してみた選手の感想

見延 加納 両選手

これまでのフェンシングウェアの課題を解決し、バージョンアップされたデサントの新フェンシングウェア。

では、実際に着用してみた感じはどうなのか。

見延、加納両選手。さらに太田会長から感想を聞くことができた。

Q:新競技ウェアの着心地はいかがでしょうか?

見延選手 加納選手 太田会長

▼見延選手
「そうですね。本当にこれまでのフェンシングウェアよりも軽いですし、何より僕が感じるのが“通気性の良さ”です。フェンシングってマスクまで被ると、後ろの手の部分しか露出する部分がないので、動いているとものすごく熱くなってくるんですけど、デサントのフェンシングウェアは通気性もすごくて、動いていても熱くなりにくいですし、従来のウェアよりも涼しく感じます。」

▼加納選手
「従来のものに比べて、軽いです。最近ドイツ製のフェンシングウェアも大分軽くはなってきましたが、それとは比べ物にならないくらい、薄くて、着心地が抜群です。」

見延選手 加納選手 ファイティング

Q:今回、脇のきりかえを無くし、生地を一枚づかいにしたことで動きやすさがあるということなんですが、具体的にはどういった感じなんでしょうか?

▼見延選手
「やはり脇の部分が一枚で繋がっているので、突いた時に引っかかるストレスがなく、スムーズに腕を伸ばすことができます。」

太田会長 見延選手

▼太田会長 
「脇の部分が今までのウェアだと、動きが止まってしまったのですが、そこが一枚になったことで、すっと手が伸ばせるようになっています。さらに見延選手はリーチが長いので、そういった障害がない分、より相手を遠くまで突く事ができるんじゃないかなと思います。」

Q:一枚布にしたことによって、動きやすさというのはかなり変わるものなんですか?

▼見延選手
「かなり変わりますね。僕もこれまでは腕を伸ばす際、引っかかったりしていましたが、新ウェアではまったくストレスがないんです。」

見延選手 加納選手 ファイティング 見延選手 加納選手 ファイティング 見延選手 加納選手 ファイティング

Q:さらに今回、ひざが曲がった状態でも立体的なパターンで作られているということですが、足の踏み込みが重要になるフェンシングで、その辺りはいかがでしょうか?

▼加納選手
「従来のフェンシングウェアでは、踏み込んだ時に、上にウェアがずれてしまって、ひざが出てしまうことがあったんですけども、デサントのウェアでは、踏み込んでもまったくひざが出ないので、すごくいいと思います。」

加納選手

開発担当者の今橋氏に直撃取材

ここまでで新競技ウェアが、いかに従来の課題を解決してきたかについて書いてきたが、実は全てではない。

フェンサーの目線からいえば、まだ気になることがある。

それは、下記の2点だ。

※気になること

①汗をかきすぎると、ウェアが汗を吸ってしまう関係で重量が重くなってしまうのではないか。
②熱への耐性について。(乾燥機にかけて縮むということはないのか。)

この疑問を、開発担当者の今橋氏に直接ぶつけてみた。

①汗をかきすぎると、ウェアが汗を吸ってしまう関係で重量が重くなってしまうのではないか。

前田
今回はお時間をいただきまして有難うございます。

早速ですが、いくつか気になることがあったので、質問させてください。

まず、フェンシングウェアは汗を吸うと重くなって、動きづらくなってしまうものですが、今回発表された新フェンシングウェアは、汗に対する対策などはされているのでしょうか?

今橋氏
もちろん汗処理のことも考えております。裏地に使っている素材が、吸水、速乾性がある素材で、汗が表に出ないよう、中の生地で吸えるようになっております。

②熱への耐性について。

前田
先ほど新フェンシングウェアが縮みづらいというお話をされていたのですが、例えば早く乾かしたいからと乾燥機をかけた場合、熱でウェアが縮むということはないのでしょうか?

【補足】
従来のフェンシングウェアは熱に弱く、乾燥機にかけるとウェア全体が縮んでしまう。
今橋氏
基本的に乾燥機はNGとしています。

一応、試着してもらっている選手の話によると、すぐ乾かしたいたいから乾燥機かけちゃったという話は聞いてたのですが、特に縮んだといことは無かったので、そこにも耐えうるような仕様になっているのですが、弊社としては良しとしていません。

やはり熱はNGですから。

実際に触ってみた感想

デサントのユニフォームを触った率直な感想は非常に軽いということ。

その軽さは『APEX FIEユニフォーム』を彷彿とさせた。

APEX FIE ユニフォーム』とは、イギリスのレオンポール社が新開発したもので、従来の重量『2296g』から『1458g』まで大幅に軽くすることに成功し、着用する選手のパフォーマンスアップに成功した業界に衝撃を与えた競技ウェアだ。

今回発表されたデサントの競技ウェアは、その『APEX FIE ユニフォーム』に匹敵する軽さだった。

競技ウェアにおいて、軽さは大変重要で、軽ければ軽いほど、スピードも上がり、フェンサーのパフォーマンスをより一層高めてくれる。

開発担当者の今橋氏曰く、今回デモンストレーションをした見延選手も軽さを重要視しており、更に前述した動きやすさも兼ね備えているのであれば、フェンサーにとって、心強い味方になってくれるのは間違いないだろう。

では試合の時はどのようにパフォーマンスアップが見込めるか?

これまで新フェンシングウェアの特徴、性能について書いてきたが、実際試合で使用する時にパフォーマンスアップは見込めるのか?

答えは“YES”だ。

そう言えるポイントが2つある。

①ウェア自体が軽い。
②通気性がよく、乾きやすい。

1つずつ解説していこう。

まず①の「ウェア自体が軽い」ということは、それだけ体にかかる負担が少ないことを意味している。これはフェンシングという競技の特性上、有利に働く。

フェンシングの試合は、通常5本勝負総当たりの予選から始まり、勝ち上がった選手が15本勝負のトーナメント戦に進むことになる。

勝てば勝つほど、疲労が蓄積されるので、この時ウェアが重いと、フェンサーにかかる負担も大きくなってしまう。だからこそウェアにこだわるフェンサーは、少しでも身体にかかる負荷を無くそうと、軽いウェアを求めるわけだ。

②の「通気性がよく、乾きやすい」も試合において重要な要素だ。

特にフェンシングのように、全身が防具におおわれたスポーツでは、動けば動くほど、身体の熱が溜まっていってしまう。

すると必然的に、体力の消耗が激しくなるので、最後まで体力がもたない可能性が出てきてしまうのだ。

さらに身体が熱くなると、汗の量も尋常ではなくなってしまい、その分、ウェアが汗を吸って重くなってしまう。

だからこそフェンサーは1つ試合が終わる度に、一度ウェアを脱ぐ。これは熱した体を冷ます目的もあるが、ウェアにこれ以上、汗を吸わせないためでもある。

だが通気性がよければ、身体に溜まる熱も逃すことができるし、汗をかいても乾きやすいのであれば、ウェアが重くなる心配も軽減される。つまり今回の新フェンシングウェアで優れているところは、「軽く、日本人の体型にあわせた動きやすい仕様になっているにも関わらず、長く試合ができるための工夫までされている」ということだ。

特に接戦になるほど、身体の負荷は大きくなっていくので、その負担が軽減されるこの仕様は、1つのアドバンテージになりうるということだ。

今後の展開について

今回発表されたデサントの新フェンシングウェアについては、まだ一般に販売される予定はない。

ただ今回話を聞いていて、これまで海外に頼ってきたフェンシングウェアが、国内で開発されたというだけで、フェンシング 関係者としては信じられない気持ちで一杯だ。

もともとデサントは、トレーニングウェアを提供するという形で、日本フェンシング 協会と関わっていたが、その中で『競技ウェアに関しても、日本の製品で選手をサポートしてほしい』という声が多くなってきたことから、今回のフェンシングウェアが開発されるに至った。

日本フェンシング協会会長の太田雄貴氏はこう話す。

『どんどんフェンシングの技術の進化と共に道具も進化していけるという、典型的な形なんですけども、今回本当にフェンシング界に大きなイノベーションを起こした。そういった商品になるのかなと僕は思います。』

デサント フェンシングウェア 下アングル

デサントが苦労の末に生み出した、すべてのフェンサーの声を反映した一着。

この場で恐縮だが、今の筆者の心境を綴りたいと思う。

ここまでフェンシングウェアが欲しいと思ったのは初めてだ。


【筆者主宰】騎士のスポーツ、フェンシングを始めませんか?

フェンシングというスポーツを知っていますか?

最初にイメージするのは、中世の剣士たちが繰り広げる激しいバトルだと思いますが、そのバトルをスポーツにしたものが、このフェンシングです。

剣をつかっているので、”チャンバラごっこ”に近いとも言われ、普段やりすぎると怒られるチャンバラごっこも、ここではやった分だけ褒められます。さらに、フェンシングは別名”筋肉を使ったチェス”とも言われており、相手の裏をかく戦いをすることから、頭を使う練習にも最適です。

墨田フェンシングクラブでは小学生から大学生までを中心に、全国トップクラスの実績を持つコーチが、フェンシングの指導を行っています。

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