フェンシングが、実はバランスの偏りやすいスポーツであることをご存知だろうか?
例えば、剣を持っている腕の方が、もう片方の腕より太くなってしまったり、前傾姿勢が原因で、前足が後ろ足より太くなってしまったりする。
『だから何?』と思う方もいるだろうが、こうしたバランスの偏りをそのままにしておくと、後々、大変な怪我につながるということを知っていただきたい。
例えば、前足が後ろ足より太く、前傾姿勢になりがちな選手がいたとする。こうした選手は激しくフットワークをしている最中、動きが速くなればなるほど、前傾姿勢になってしまいがちだが、そうすると前足に体重が集中しすぎて、いざという時に前に出られない。結果、試合の勝敗にまで影響を与えてしまう。
恐ろしいのはここから。左右の偏りを放置して、必要以上の負荷が腰にかかってしまうことで、腰を怪我したり、最悪ヘルニアになってしまう恐れまであるのだ。
一度ヘルニアになると、復帰するまでに時間がかかるばかりか、しばらくまともに歩けなくなるので、日常生活にも支障をきたす。そうした恐ろしさが、”バランスの偏り”には潜んでいる。
なぜこうしたことを言えるのかというと、筆者自身がこの”ケガ”経験しているからだ。
筆者の場合は、現役だった大学1年生時にバランスの偏り(前傾姿勢)が原因でヘルニアを発症してしまった。
こうした経験を今後のフェンサーがしないよう、今回はバランスの偏りを改善するトレーニングメニューを、元フェンシング日本代表のスポーツトレーナー、『辻 健一郎 氏』より、直接教えていただいた。
バランスの偏りを改善するためのノウハウまで詳しく教えていただいたので、フェンサーとして、前傾姿勢になっていたり、上半身のバランスに悩まれている方は必見だ。
目次
フェンサーとしてのバランスを整えるためのトレーニングメニュー
(1)腕立て伏せの姿勢から行うウォーミングアップ
・やり方
①脇の下に親指がくるぐらいの位置で手をつく。
②背中は丸めた状態で、腕立て伏せの姿勢をとる。
③②の状態で首を長くして、足の踏ん張りを効かせたら、下半身も持ち上げる。
④肘が逃げないように、しっかりとしまいこみながら、鼻から息を吸って口から吐く。その呼吸を5〜10回繰り返す。
⑤完了
※呼吸は口からしっかりとはけていることがポイント。
(2)キャットアンドドッグ
・やり方
①肩の下に手をパーの状態につき、ひざは股関節の下について四つん這いになる。
②足の指はリラックスして踏ん張らないようにする。
③頭を下にしてから背中を高く持ち上げる。この時に息を口からはくようにする。
④そのまま腰をぐっと下に沿うように曲げる。この時に息を口から吸う。その際、頭の位置はずらさないよう意識する。
⑤次にフィッシュ。①の状態で息を吸って、はきながら足を見にいくような形を作る。
※その際、横腹に力がしっかりと入っていて、反対側の足を見にいった時、ストレッチがかかるようになる。
⑥最後に、片方の手で二の腕を持ちながら、背中、腰を大きく動かしながら、腰の動きがわかってきたら、胸の方まで動かすようにする。この時に頭と掴んでいる方の腕が動かないようにしながら、動いていく。これを片方、『30秒』行う。
⑦完了
※腰・背中・股関節を動かすようなイメージ
(3)お腹の力を入れる呼吸法
・やり方
①足をガニ股にして、しっかり足の裏はベタ足。
②腕は伸ばしきって、おへそを見るような状態にする。
③②の状態で、息を鼻から吸って、口から吐いてを10回繰り返す。その際に、お腹の力が入るようにして、ひざはしっかり開くようにする。
④完了
(4)ゴムチューブを使ったトレーニング方法
・やり方
①伸びやすいゴムのチューブを用意して、両手で持つ。
②足は肩幅くらいにして、腕を下の方に伸ばしきる。
③①の状態で、親指は前側に外しておく。
④真横に10cmくらい伸ばしたら、胸を開きながら親指をまっすぐ前へ。その状態で人差し指を離す。
⑤ひざを少し曲げて、骨盤を少し倒す。
⑥ゴムを少し横に伸ばした状態でキープ。そのまま頭の上まで上げていく。そのとき、しっかりと背中に力が入っているか確認する。
⑦背中に力が入ったと感じたら、ゴムを元の位置に戻していく。
⑧ここまでの動作を5~7回行って完了
※ゴムを伸ばしすぎると肩に力が入ってしまうので、少し伸ばしたくらいで行うのがベスト。
(5)横方向のエクササイズ
このトレーニングは動画のような『トレーニング用のマシン』が必要になる。
※重さは、少し重量を感じる程度。
もしもマシンがない場合は、ペアを組んで、もう1人の人に手を斜め下に引っ張ってもらう。
※1人ではできず、チューブを使っても負荷が異なるそうで、効果は期待できないという。
・やり方
①足は肩幅くらいに広げておく。
②マシン側の持ち手を持っている方の足の荷重を抜き、足を立てる。
③そのまままっすぐしゃがむ。
※この時点で荷重を抜いている方とは反対側のお尻に力が入っている。
※お尻はしっかり出してあげるようにする。
④そのまま、胸をまっすぐ前に向かせた状態で、腕を伸ばす。
⑤④の状態からグッと引き寄せて、まっすぐ立ち上がる。
⑥①〜⑤までを片方5〜7回ずつ行う。
※このエクササイズをすることで、『足を外に開く筋肉』を鍛えることができる。
(6)ブルガリアンスクワット
・やり方
①足を乗せる台から、2.5〜3歩離れたところの立つ。
②片足を台に乗せる。その際乗せる方の足に力は入れないようにする。
③ひざと股関節を緩める。この時に立っている方の足の重心を真ん中にすると、お尻に力が入る。
④次に上半身はしっかり開いて、胸を張る。
⑤④の体勢のまま、スクワット開始。真下にしゃがんで、上がるのを繰り返す。上がる際は、ひざが伸びきらないように注意。そうすることで、重心がぶれることなくスクワットすることができる。
⑥片方5~7回したら完了。
※呼吸は口からしっかりとはけていることがポイント。
(7)片足でおこなうデッドリフト(引き支え)
・やり方
①柱に指(※動画では指1本だが、通常は4本)を引っ掛けて、体重を少し外側にかける。
②ひじは少し曲げた状態で、足の体重は足裏の”真ん中”に来るようにする。
③ひざを少し曲げて、背筋に少し力を入れてあげる
※柱側のお尻(片側)に力が入って入ればOK。
④③の状態で、お辞儀をしながら、前後に手と足を伸ばす。
※大きく伸ばすというよりも、しっかりとお尻を後ろに引いていってあげるのがポイント。
⑤①〜④を5~7回繰り返す。
※自重でできるようになったら、ダンベルなどを使って負荷を加えてあげると、より太ももへの良いトレーニングになる。
(8)片足でおこなうデッドリフト(押し支え)
・やり方
①柱の方にしっかりと体重をかけて、柱とは逆側の足で立つようにする。
②ひじは少し曲げた状態で、足の体重は足裏の”真ん中”に来るようにする。
③ひざを少し曲げて、背筋に少し力を入れてあげる
※柱と逆側のお尻(片側)に力が入って入ればOK。
④③の状態で、お辞儀をしながら、前後に手と足を伸ばす。
※太ももの後ろに力が入っていればOK。
※大きく伸ばすというよりも、しっかりとお尻を後ろに引いていってあげるのがポイント。
⑤①〜④を5~7回繰り返す。
※自重でできるようになったら、ダンベルなどを使って負荷を加えてあげると、よりお尻への良いトレーニングになる。
まとめ
フェンシングにつきものである『左右の偏り』。
これを改善することで、怪我をしにくくなるばかりか、バランスが安定して次の攻撃(突き)にもつなげやすくなる。結果、フェンサーとして1つ上の段階にステップアップすることができるというわけだ。
このトレーニングメニューを教えていただいた辻氏も、バランスを安定させることは、競技力向上に必要不可欠であると言っている。
今回お伝えしたトレーニングメニューは、筆者が辻氏にパーソナルトレーニングで教えていただいた内容だが、もちろん左右のバランス以外のトレーニングメニューを指導してもらうこともできる。
もしもトレーニングで悩み事があれば、その道のプロに聞いてみるのもありだろう。
これまでとは違う世界が見えてくるかもしれない。
この記事が、多くのフェンサーのお役に立てれば幸いだ。
【指導協力】
辻 健一郎氏
【指導している施設】
Y.T.G CORE
【住所】
神奈川県横浜市港北区日吉2丁目6 横浜市港北区日吉2丁目6−20 ビーハイヴ1階
※横浜市・日吉駅(東横線・目黒線・市営地下鉄)より徒歩2分。
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